協議離婚
その国際離婚は、日本で手続きができますか?
私が、あなたから国際離婚の相談を受けたときに、真っ先に考えるのは、「その離婚は、日本で手続きができるかどうか?」です。そもそも、日本で何の手続きもできないならば、あなたからの依頼を仕事として受けることが一切できないからです。
そして、もし、日本で手続きができなければ、外国で離婚手続きを行うしかないです。外国での手続きは、その国の弁護士等に依頼して、やってもらうしかないです。
さて、まずは離婚届が提出できるかを、検討します
離婚届の署名欄に、相手のサインをもらうことはできますか?
まず、はじめに考えなければならないのは、あなたが離婚したいとして、相手が離婚したいと思っているか?です。
(1)相手は離婚に賛成していますか?
(2)親権をどちらが持つかについて、相手と合意できますか?
(3)離婚届に、署名してくれますか?
もし、⑴~⑶にすべてYESならば、離婚届の提出による離婚(=協議離婚)が第一の選択肢です。離婚に賛成し、親権に合意があれば、離婚届の記入ができるからです。
離婚と親権に合意したとして、あなたは日本人ですか? 外国人ですか?
外国人夫婦の場合は、2人の国籍は同じですか? 違いますか?
次に、離婚と親権に合意し、実際に離婚届を書いたとして、市役所が受理できるかを検討します。受理できるかどうかは、その離婚を、どの国の法律で行うかによって決まります。つまり、日本の法律に従って離婚できるならば、市役所は離婚届を受け取ります。この時は、すんなり離婚が成立します。
離婚届を受理できる(=協議離婚)のは、以下の2パターンです。
パターン1)夫婦のどちらか一方が、日本人である
夫婦のどちらかが日本人の場合、日本の法律によって離婚できます。つまり、相手の署名がある離婚届を提出すれば、受理してもらえます。ただし、日本人とフィリピン人の離婚などでは、在留状況や今後の再婚予定によっては、調停離婚の方が望ましい場合があります。
パターン2)夫婦ともに外国人で、2人の国籍が違う。ただし、日本に長く在留している。
夫婦の国籍が一致していなくて、常居地(住んでいる国)が一致している場合は、日本法により離婚できます。ただし、日本が常居地と認められるためには、夫婦両方の在留資格と在留期間を確認し、常居地と認められる期間を超えて、日本に在留する必要があります。
在留資格等 | その他の要件 | 常居地と認められる期間 |
「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」「永住者」 | 1年以上 | |
「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」「永住者」 | 日本生まれの子 現在の在留中 |
常居地と認める |
「技術・人文知識・国際業務」「留学」「家族滞在」など | 5年以上 | |
在留資格「外交」「公用」、「短期滞在」 不法滞在者、米軍関係者 |
常居地とは認めない |
つまり、市役所で離婚届を受理してもらうためには、身分系の在留資格で1年以上、就労系の在留資格で5年以上の在留があることが必要です。この場合は、夫婦の国籍が異なれば日本法による離婚を認めるので、離婚届の提出は可能です。
(ただし、本国でその離婚を認めるかどうかは、その国の法律によります。協議離婚制度のない国は、日本で成立した協議離婚を認めないことがあります。)
離婚届を受理できないのは、以下の3パターンです。
パターン3)相手が離婚届にサインしてくれない、又は親権に同意してくれない。
そもそも、どのような場合でも、離婚届に相手がサインしてくれなければ、提出できません。えっと・・・。絶対にだめですよ! 勝手に相手のふりをして、サインしてしまっては!
それは、明らかな犯罪行為です。
パターン4)夫婦ともに外国人で、夫婦の国籍が違うが、長く在留していない。
どちらか一方でも身分系の在留資格で1年以下、就労系の在留資格で5年以下しか日本に在留していない場合は、離婚届を受理できません。日本が常居地とみなされない為です。
パターン5)夫婦ともに外国人で、夫婦の国籍が同じである
ベトナム人夫婦、中国人夫婦やネパール人夫婦の離婚。この場合は、その夫婦の本国法(ベトナム法、中国法、ネパール法)に従って、離婚届を受理できるかどうかを判断します。ただし、世界的に、協議離婚を認めている国はとても少ないです。
ちなみに、ベトナムも、中国も協議離婚の制度はありません。ネパールは、協議離婚はできますが、離婚届の提出先は裁判所です。つまり、ほぼほぼ、絶望的・・・。
まとめ
自分の国籍 | 相手の国籍 | 合意 | 離婚届の提出(協議離婚) | |
パターン1 | 日本 | A国 | あり | できる |
パターン2 | A国 | B国 | あり | できる場合がある。 (日本の在留が長く、常居地と認められたときに限る) |
パターン3 | 日本
A国 |
A国
B国 |
なし
なし |
できない(離婚や親権に合意なし)
できない(同上) |
パターン4 | A国 | B国 | あり | できない(在留期間が短い場合) |
パターン5 | A国 | A国 | あり | ほとんどできない。 (A国法で協議離婚が定められていれば可能だが、そのような国は少ない) |
あなたの離婚が、パターン1,パターン2のどちらかの場合は、「離婚届を記入する(協議離婚の場合)」をご参照ください。また、離婚届を提出して決まるのは、離婚と親権だけなので、子の養育費や財産の分与を希望する場合は、離婚協議書の作成を検討して下さい。
また、離婚届が提出できるからといって、調停による離婚ができないわけではありません。養育費の金額で揉めている場合や、財産分与の金額が大きい場合は、離婚届を出すのではなく、あえて調停を利用するのも手だと思います。
なお、あなたの離婚が、パターン3~パターン5のように、離婚届を提出する方法では成立しない場合もあります。
その際は、次に、家庭裁判所による調停を選択します。
裁判所か・・・と、ブルーになったり、身構えてしまったあなた。まあまあ。何かよっぽど悪いことをしているわけでは無ければ、そうそう、裁判所は恐ろしい場所ではないですよ。はい。
国際離婚で、調停の申立てができるかどうかを検討する につづく
日本の法律において、どの国の法律を適用するかは、「法の適用に関する通則法」で定められています。参考として、条文を添付します。
法の適用に関する通則法
(婚姻の効力)
第25条 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
(離婚)
第27条 第25条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。